ハダカデバネズミには、さまざまな面で他の哺乳類にはない特徴があるが、とりわけ生涯にわたって妊娠可能な状態が続くという点は例外的である。米ピッツバーグ大学のMiguel Brieno-Enriquez氏らは、こうしたハダカデバネズミの妊孕性の背景にある理由を突き止めることで、不妊に悩む人間のカップルに対する新たな治療法への道を見出せる可能性があると考え、研究を実施。その結果を、「Nature Communications」2月21日号に発表した。
Brieno-Enriquez氏は、「ハダカデバネズミは最も風変わりな哺乳類だ。例えば、体の大きさはマウスと同程度なのに、その寿命は30年以上であり、げっ歯類の中で最も寿命が長い。また、がんに罹患することはほぼ皆無で、痛みを感じることもない。さらに、地下で群れをなして生息し、女王ネズミだけが子を生むことができる。しかし、私を最も驚かせたのは、ハダカデバネズミが高齢になっても妊孕性が低下することなく、子どもを生み続けることだった」と同大学のニュースリリースで語っている。そして、「われわれは、どうしたらそれが可能になるのかを明らかにしたいと考えた」と研究背景について話す。
人間も含めてメスの哺乳類では、最終的に卵子に分化する生殖細胞の数が生まれたときから決まっていて、経時的に減っていく。そのため、加齢に伴い妊孕性は自然に低下する。しかし、ハダカデバネズミは高齢になっても子を生み続けることができる。このことは、アフリカに起源を持つこのげっ歯類に、生殖細胞の供給量を保ち続ける特別な能力がある可能性を示している。
Brieno-Enriquez氏は、「ハダカデバネズミが子を生み続けることができる理由として、3つの可能性が考えられる。1つ目は、誕生時の生殖細胞数が多いというもの。2つ目は、生まれたときに持ち合わせている生殖細胞の多くが死滅しないというもの。3つ目は、生まれた後も生殖細胞が作られ続けるというものだ」と説明する。今回の研究では、これら3つのプロセスの全てを裏付けるエビデンスが得られた。
まず、生後8日の時点で、メスのハダカデバネズミは、平均150万個もの生殖細胞を持っていることをBrieno-Enriquez氏らは突き止めた。この数は、メスのマウスの生殖細胞数の約95倍にも相当する。次に、メスのハダカデバネズミでは、生後3カ月の時点でも卵子となり得る生殖細胞が活発に分裂していることが確認され、生まれた後も新たな生殖細胞が作られ続けることが明らかになった。また、このような生殖細胞は10歳時にも見られたことから、ハダカデバネズミでは生涯にわたって卵子が形成される可能性が示唆された。
こうした結果について論文の上席著者である米コーネル大学獣医学部教授のNed Place氏は、「これは驚くべき結果だ。メスの哺乳類には出生前あるいは出生直後までに、限られた数の生殖細胞ができ、その後に数が増えることはないという、約70年前に確立された定説に疑問を投げかける結果だ」と話す。
さらに研究グループは、メスのハダカデバネズミの生殖系が自然に活性化されることも突き止めた。ハダカデバネズミは蜂や蟻と同様、集団で生息し、女王のみが子を生む一方で、他のメスたちの生殖能力は抑制される。ただ、蜂や蟻とは異なり、ハダカデバネズミの女王は生まれながらの女王ではない。Brieno-Enriquez氏は、「女王ネズミが死んだり、群れから排除されたりした場合、下位のハダカデバネズミたちが女王の座をめぐって競い合い、女王の座を勝ち取ったハダカデバネズミの生殖能力が働くようになる。どのメスにも女王になれる可能性はある」と説明する。
研究グループは、3歳のメスのハダカデバネズミたちを群れから引き離し、それぞれ1匹ずつ、オスのハダカデバネズミとともにケージに4週間入れて、生殖能力の活性化を促した。その後、これらの新しい女王ハダカデバネズミを、下位のメスたちと比較した。その結果、子を生んでいない下位のメスたちの卵巣にも生殖細胞は存在していたが、女王になった個体でのみ、卵子形成に向けてその分割が始まることが分かった。
Brieno-Enriquez氏は、「これは重要な知見だ。その理由を突き止めることができれば、人間の健康に役立つ新たな治療薬の標的や技術の開発につながる可能性がある。人間の寿命は延長したが、閉経年齢は今も変わっていない。われわれはハダカデバネズミから得られる知見を生かして、加齢に伴う卵巣機能の低下を抑制して生殖機能をより長く維持できるようにしたいと考えている」と述べている。
[2023年2月21日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら