米国でガソリンなどの化石燃料で動く自動車が電気自動車(EV)に完全に置き換わったら、きれいな空気と人々のさらなる健康を期待できるのだろうか?
その確実性を予測する研究結果が報告された。EVの普及により大気質が改善することで、2050年までに早期死亡リスクが低下し、大気汚染に関連する医療費を数十億ドル規模で削減できる可能性が示された。また、EVの普及により得られるベネフィットが特に大きいのは、ロサンゼルスやニューヨーク、シカゴなど一部の大都市圏であることも分かった。米コーネル大学土木環境工学部のH. Oliver Gao氏らによるこの研究の詳細は、「Renewable and Sustainable Energy Reviews」に11月28日掲載された。
Gao氏らは今回、米国環境保護庁(EPA)のデータ、EPAの大気質シミュレーションモデルや規制による大気質の変化が健康にもたらす影響を経済面から評価するソフトを用いて、米国の30カ所の大都市圏ごとにEVの2050年までの普及が公衆衛生に与える影響を予測した。
その結果、最も大きな利益を享受するのはロサンゼルスであり、EVの普及による大気質の改善によって年間約1,200人の早期死亡を回避でき、126億1000万ドル(1ドル132円換算で1兆6645億2000万円、以下同)の医療費を削減できると推定された。また、ニューヨーク市でもEVの普及により年間約600人の早期死亡を回避でき、62億4000万ドル(8236億8000万円)の医療費を削減できると推定された。この2都市に次いで、早期死亡の減少や医療費の削減に対する効果が高いと推定されたのは、シカゴ、カリフォルニア州のサンホアキン・バレー、ダラスであった。
Gao氏らは、米国人の健康にEVの普及が良い影響を与えることを示した今回の結果に驚きはなかったという。同氏は、「われわれは、電気を使った交通手段は大気の質と健康へのメリットを伴うことを予想していた。おそらく、多くの人々も同じ考えだろう」と話す。なぜなら、米国では温室効果ガスの約30%を石油系燃料で動く車両が排出していると推定されているからだ。それに対して、EVは排気ガスを排出しない。
Gao氏によると、EVの技術開発の取り組みは数十年前から始まっているが、EVへの移行は始まったばかりだ。例えば、2つの主要な連邦政府のイニシアチブである2021年のインフラ投資・雇用法や2022年のインフレ抑制法には、気候に優しい要素が盛り込まれていると同氏は指摘する。例えば、インフラ投資・雇用法により、全米に50万基のEVの充電器を設置するために75億ドル(約9900億円)が投資される一方で、インフレ抑制法により、クリーンエネルギーを使用する商用車に対しては税控除が行われる。
ただ、これらの法律の成立よりも早い段階から変化の兆しは見えていた。Gao氏らによると、世界の自動車販売台数に占めるEVの割合は、2016年には1%未満であったが、2018年には2.2%、2020年には4.1%へと上昇し、2021年には6.6%となった。米国におけるEVの販売台数も、2020年の30万台から2021年には70万台と2倍以上に増えた。
しかし、EVへの移行が実際に進められるのは都市だ。都市ごとにEVの普及の程度を見ると、すでに米国全体の数値をはるかに上回るレベルに達している都市もある。例えば、2021年の自動車販売台数に占めるEVの割合は、サンフランシスコでは22%、ロサンゼルスとシアトルでは約12%に達していた。これに対して、ニューヨーク市では3.4%にとどまっていた。その一方で、地域間でEVの普及によってもたらされるベネフィットの程度にばらつきがあることに、研究グループは驚かされたという。
米マサチューセッツ工科大学のNoelle Selin氏は、「交通が大気汚染の主な原因の一つであることを考えれば、電気を利用した交通手段によって大気質が改善する可能性が高まるというのは驚くべきことではない。化石燃料からの脱却は、大気質に大きなメリットをもたらすだけでなく、気候変動を抑える助けにもなる」と説明。さらに、「そのような理由から、EVの普及を促す政策とインセンティブは、公衆衛生の推進と気候変動の抑制の両面において重要である」と述べている。
[2022年12月14日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら