職場で吸入する空気により、関節リウマチ(RA)の発症リスクが高まることがあるようだ。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のBowen Tang氏らが実施した研究で、職場で蒸気やガス、溶剤などから生じる粉じんやヒューム(物質の加熱や昇華により生じる粉じんや煙霧、揮発性粒子など)に曝されることで、RAの発症リスクが増大することが明らかにされた。そればかりか、そのような物質への曝露は、喫煙や遺伝的にRAになりやすい傾向の悪影響を増長する可能性のあることも示唆されたという。この研究の詳細は、「Annals of the Rheumatic Diseases」に12月6日掲載された。
喫煙がRAの発症リスクを高めることは明らかにされているが、職場で吸入する粉じんやヒュームが同リスクに及ぼす影響については知られていない。そこでTang氏らは、スウェーデンのRAに関する疫学調査(Swedish Epidemiological Investigation of RA)のうち、1996年から2017年の間に新たにRAの診断を受けた患者4,033人と、年齢と性別を一致させたRAのない対照6,485人のデータを抽出。職業性曝露とRA発症との関連を、喫煙やRA発症の遺伝的要因も考慮した上で検討した。職業性曝露については、個人の職歴を精査し、職場の空気中に存在する32種類の物質への曝露量から評価した。また、遺伝的なRAリスクについては、遺伝的リスクスコア(GRS)を算出して、リスクの高い群と低い群に分類した。
RAの検査では、血液中の抗シトルリン化蛋白抗体(ACPA)の有無を調べる。ACPA陽性は、関節の骨の破壊(骨びらん)の進行が早く、予後不良であることを示す。本研究では、RA患者4,033人のうち2,642人がACPA陽性、1,391人が陰性であった。解析の結果、何らかの職業性曝露を経験した人では、ACPA陽性のRAを発症するリスクが25%高いことが明らかになった(オッズ比1.25)。性別ごとにリスクを検討すると、職業性曝露を経験した男性では、あらゆるRA発症のオッズ比が1.40、ACPA陽性RA発症のオッズ比が1.66であるのに対して、女性でのオッズ比はいずれも1.13であり、男性でのリスク増加が顕著であった。
検討対象とした32種類の物質のうちの17種類(アスベスト、石英粉じん、ディーゼル排ガス、ガソリン排ガス、一酸化炭素、防カビ剤など)と、ACPA陽性RAの発症リスク増大との間に強い関連性が認められた。これに対して、ACPA陰性RAの発症と強い関連性を示したのは石英粉じん、アスベスト、洗浄剤など少数であった。また、曝露した物質の数が多いほど、または曝露期間が長いほど、リスクも増大していた。あらゆるRAの発症リスクが最も増大していたのは曝露期間が8~15年の場合であった。さらに、男性は女性よりも多くの物質に長期間曝露する傾向があった。
このほか、職業性曝露、喫煙、GRS高スコアの3つの条件を併せ持つ人では、このような条件に該当しない人に比べて、ACPA陽性RAの発症リスクが16~68倍に上昇することも明らかになった。物質の種類別に見ると、同リスクは、殺虫剤で68倍、ガソリン排ガスで45倍、石英粉じんで32倍、ディーゼル排ガスで28倍であった。
本研究論文の付随論評を執筆した米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のJeffrey Sparks氏は、「今回の研究結果は、RAの発症機序について興味深い手がかりを示すものだ。職場で吸入する物質の種類により、リスク遺伝子や喫煙との反応の仕方は異なる。そのため、これらの物質が本当にRA発症の原因であるのなら、それぞれ異なる経路を介して関与している可能性がある」と同氏は話す。さらに同氏は、「今回の知見は、ACPA陽性のRAがACPA陰性のRAとは大きく異なるという見解を裏付けるものでもある」と付け加えている。
[2022年12月9日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら